Child Care Commons 子育てと社会のかかわり方を多様化するしくみを考える
Child Care Commons
子どもが育つ環境をよりよくするための子育てと社会とのかかわり方とは?

子どもが育つ環境をよりよくするための子育てと社会とのかかわり方とは?

核家族化が進み、地域における人間関係が変化している現在の日本では、親子と社会の関係が遠くなってしまうことが少なくありません。そして、国や地域による子育て支援制度の試みも、まだ改善の余地があります。

個人主義の浸透やプライバシー意識が高まる中、ある親子に血縁関係を持たない第三者がどのようにかかわるのか。過負荷や孤独感を抱える親のサポートはどうすればよいか。子育てやその支援にはさまざまな課題があります。

子育てでの基本的な責任を持つ親だけでなく、そのまわりの第三者も含めて考えることで、子育ての課題をよりよく解決する方法につながるかもしれません。私たちは親として、子どもとして、第三者として、子どもが育つ環境にどのようにかかわっていくことができるでしょうか?

Child Care Commons (CCC)プロジェクトとは

私たちは、JSTムーンショット型開発事業目標9のプロジェクトの一つとして、第三者も適切にかかわりながら社会全体で子育て環境の選択肢を広げていくためのしくみ「Child Care Commons (CCC)」の可能性を考えています。

子どもが育つ環境にはいろいろな可能性があります。核家族化し、また、プライバシーや個人情報が重視されている現代では、家族だけで子育ての方針を決めることが望ましいと思う人もたくさんいるでしょう。その一方で、親だけで子育てを続けていくことが難しく、誰かに助けてほしい、話を聞いてほしいと思う場合もあるかもしれません。しかし、実際にはそれぞれの考え方、プライバシーは尊重しつつ、適切な期間・やり方で周りの人が親子にかかわることは簡単ではありません。

このような状況の中、私たちはある特定の子育ての形だけを重視するのではなく、それぞれの親子がより広い可能性に目を向けながら自律的に子育ての環境を選び、作っていくことを支援するしくみが必要とされているのではないかと考えてCCCプロジェクトを立ち上げました。

このプロジェクトでは、従来の家族学・社会学の観点からの既存制度の調査やさまざまな家族のありかたについての議論に加えて、プライバシー保護や個人情報のデジタル化技術の子育て支援への応用可能性などさまざまな視点から親・子・第三者それぞれが、良い関係性を構築し子育てができるしくみの検討を進めています。

現代の子育てにおける親の責任と負担

現代の日本の社会では、親と子供で構成される核家族が増えています。かつて大家族制や地域コミュニティでは分け持たれていた子育ての責任や負担は、親に集中することが多くなりました。このような責任の集中はプライバシーの保護や個人主義の尊重などの考え方に沿っているようにも思えます。

しかし一方で、各個人の意向を無視して子育てのかたちを親に責任が集中する一つのかたちに絞ってしまうことはむしろ望ましくないかもしれません。さらに、責任集中により親のストレスが増大することで、情緒面・身体面における子どもの健全な発達が阻害されるリスクなども指摘されています。

現代の子育てにおける親の責任と負担

Child Care Commons(CCC)がめざすこと

Child Care Commons(CCC)がめざすこと

現在多く見られる核家族での子育てに加え、それぞれの親子の要望に応じて、第三者の参画の可能性も含めた多様な選択肢のなかから子どもが育つ環境を選択できるしくみがあれば、子どもがより望ましい環境で育っていくかもしれません。

わたしたちは、このしくみを「Child Care Commons(CCC)」と呼んでいます。主たる養育者が持つ基本的な責任と権利・プライバシーを保持しつつ、子どもが育つための環境を親子自身が選択できるCCCの実現には、プライバシー保護を重視する現代的なICT技術の活用可能性も含めた、多くの人の意見とアイデアが必要です

昔からある、責任や負担を分け持つ子育てのかたち

日本のさまざまな場所や歴史のなかで、家族のかたちは一定ではなく、子育ての責任や負担はさまざまなやり方で分担されてきました。この子育ての責任の分有について、今でも続いている例を見てみましょう。

事例1:島親制度(島根県隠岐郡海士町)

事例1:島親しまおや制度(島根県隠岐郡海士町おきぐんあまちょう

海士町の「島親」は、親元を離れて島で寮生活をする高校生たちが安心して学校生活を送れるように、地域住民が生徒の親代わりとなり、交流を通して島での生活をサポートするしくみです。生徒たちは島親さんの畑の手伝いをさせてもらったり、伝統的な料理を教わったり、島でしか経験できない貴重な経験を積むことができます。卒業後も交流を続け、島親を訪ねて来島する生徒も多数いるそうです。
事例2:守姉(沖縄県宮古郡多良間島)

引用元:Google社「Googleマップ、Google Earth」 http://x.gd/6NqNM

事例2:守姉もりあね(沖縄県宮古郡多良間島たらまじま

多良間島には、「守姉」という、小学生くらいの女の子が、血縁がないもしくは遠縁の赤ちゃんの親代わりとなる風習があります。赤ちゃんが大きくなっても一緒に遊び、成人後も特別な関係が続きます。子どもたちは、島の大人たちに支えられ、守姉以外の周囲の人も信頼し、のびのび育っています。
事例3:寝屋子制度(三重県鳥羽市答志町)

引用元:Google社「Googleマップ、Google Earth」http://x.gd/GgCRY

事例3:寝屋子ねやこ制度(三重県鳥羽市答志町とうしちょう

答志町(答志島)に残る「寝屋子制度」は、中学校を卒業した男子数名が「寝屋子」という集団を作り、地域で「寝屋親」となる大人のもとで緊密な相互扶助関係を築くしくみです。親子および子ども同士の関係は一生にわたって続きます。寝屋親役は、若者たちを教育する責任を伴いますが、寝屋親自身も寝屋子制度を経験し、地域に育ててもらったという意識が高く、地域に恩返しをしたいという思いから引き受ける方が多いようです。

現在の子育てにおける、責任や負担の分有のかたち-そしてこれからのこと

昔からある責任の分有のかたちに加えて、現代の日本では様々な国や支援団体により子育ての責任や負担を分け持つための制度やしくみが考えられています。

さらに、技術や社会の変化とともに子育ての選択肢は今後より広がっていくのかもしれません。これからの未来に向けて子育てをどうアップデートしていけるか、一緒に想像してみましょう。

事例1:ファミリー・サポート・センター事業

事例1:ファミリー・サポート・センター事業

子どもの送迎や一時預かりなど、子育ての「援助を受けたい人(依頼会員)」と「援助を行いたい人(提供会員)」の間で、地域で有償の援助活動を行うしくみです。 子どもを持つ全ての家庭が対象となります。センターは市区町村または市区町村から委託等を受けた法人が運営し、会員同士の援助活動のマッチング、提供会員に対する研修、会員同士の交流などを実施しています。

事例2:家庭的保育事業(保育ママ)

事例2:家庭的保育事業(保育ママ)

地域型保育事業の一つで、家庭的保育者(保育ママ)の自宅などにおいて、0歳児から2歳児までの少人数の乳幼児の保育を行う事業です。安全面の配慮がなされた保育者の自宅など家庭的な環境で行われること、決まった保育者のもとで手厚い保育が行えることが特徴です。家庭的保育者は市区町村による認定に際して、年齢、一定の資格(保育士、看護師など)または特定の研修修了等の要件を満たしています。

未来はどんな子育てが実現する?

未来はどんな子育てが実現する?

技術や社会変化のなかで、未来に向けて今ある制度やICT技術を使いながら子育てをアップデートしようと思うと、なんだかワクワクしてきませんか?未来はどんな子育てのあり方が実現できそうか、子育ての可能性をさまざまに考えてみましょう。

子どもが育つ環境の、今の選択肢

CCCの実現には、子どもが育つ環境に多様な選択肢を準備しておくことが重要です。ここでは、子育てにかかわる要素を「誰が」「どの頻度で」「どこで」「どうやって」の4つの項目で分解して、これまでの事例に基づく選択肢を整理してみましょう。

誰が
地域住民
親の友人
親族
自治体支援員
民間サービス
どの頻度で
週1~2回
月1回
数か月に1回
年1回
不定期
どこで
自宅
施設
オンライン
支援者宅
どうやって
サポート親の監督の元で手伝いをする
分担親の責任の元、部分的に代行する
見守り親と子の状況を少し離れた位置で見てくれている
責任分有支援者が責任を分け持って行う
相談親の話を聞く

子どもが育つ環境の、今の選択肢

1:島親制度(島根県隠岐郡海士町)

この要素を島親制度に当てはめて考えてみた場合は、このようになります。

誰が
地域住民

※島出身であるか否かは問わない

どの頻度で
一定の頻度で

※夏休みなどは一定期間島親宅で生活することも

どこで
支援者宅

※地域住民の居宅など

で、
子育ての、
どうやって
責任分有支援者が責任を分け持って行う

※交流、学習体験など

どうやって
子育ての、
責任分有支援者が責任を分け持って行う

※交流、学習体験など

をしながら子どもが育つ

2:ファミリー・サポート・センター事業

この要素をファミリー・サポート・センター事業に当てはめて考えてみた場合は、このようになります。

誰が
自治体に認められた人

※急な事情による預かりなども含む

どの頻度で
不定期

どこで
自宅・支援者宅※など

※提供会員居宅など

で、
子育ての、
どうやって
責任分有支援者が責任を分け持って行う

※送迎、一時預かりなど

どうやって
子育ての、
責任分有支援者が責任を分け持って行う

※送迎、一時預かりなど

をしながら子どもが育つ

子どもが育つ環境は、これからどう変わる?

ここまで、子どもが育つ環境を要素に分解して考えてきました。では、これからの子どもが育つ環境に必要なものは何で、そこにICT技術は役立つでしょうか?同じやり方で考えてみましょう。

CCCでの子どもが育つ環境の作り方

私たちは、ワークショップやアンケート調査などを通して、実際の親子と一緒にこれからの子どもが育つ環境に求められる要素を考えています。下には私たちが考える要素分解の例をお示しします。

誰が
さまざまな第三者
どの頻度で
親子が望む時間だけ
どこで
親子が望む場所でだけ
で、
子育ての、
どうやって
責任分有支援者が責任を分け持って行う
どうやって
子育ての、
責任分有支援者が責任を分け持って行う
をしながら子どもが育つ

CCCで子どもが育つ環境を実現するためには、以下の問題を解決する必要があります。

1どうやって、親子と第三者がお互いの家族観を知る?
2どうやって、第三者のかかわり方を決める?
3どうやって、第三者に責任感を持ってもらう?

これらは、当事者となる一組の親子と第三者だけではなく、社会全体で考えていく必要がある問題です。CCCでは、親子が望みの環境をデザインできるように、前記の問題を解決するしくみをつくることが重要だと考えます。

1…お互いの家族観を理解したうえで、親子と第三者がかかわれるしくみ。家族観が合う人同士、少し異なる人同士、まったく異なる人とは会わないなど、さまざまなかかわり方があります。
2…親子と周囲の人、第三者との関係性やそのかかわり方を見えるようにするしくみ。これによって親子自身がその人間関係を調整できるようにします。
3…子どもが育つことへの第三者の貢献(かかわった時間や内容)を記録するしくみ。もちろん、親子のプライバシーに配慮しデータを保存・可視化します。

これらのしくみをうまく運用できれば・・・

  • 子どもは、たくさんの人と安全にかかわりあい、豊かな社会関係に基づいて自分の人生を考えられるようになります。
  • 親は、過度な負担を軽減することができ、さまざまな人の意見を参考に子育てができるようになります。
  • 第三者は、子どもの人生によい影響を及ぼし、子どもの成長に貢献したことを実感し、人生に充実感を得られるようになります。

CCCではどのように第三者のかかわりが実現されるのでしょうか?

CCCの中では、第三者と親子が決める時間と場所のみでかかわる事になるでしょう。この時、このかかわりについての情報を安全に記録し、親子の要望に応じて記録を簡単に可視化するしくみが必要です。

また、第三者へのインセンティブとして、親子のプライバシーに影響しない範囲で過去の実績を開示し、新しい関係性を構築できることが望ましいでしょう。それと同時に、親子の同意がなければ本人以外の誰も情報が取り出せないしくみも求められるでしょう。

私たちは、これらの要件を現代のICT技術を駆使して解決することに取り組んでいます。例えば、日常生活の中でも、大切な自分の財産や履歴がデジタルデータとして記録されています。

その営みの中で提案・検証されてきたブロックチェーンなどのデータベース技術は、親子を取り巻く人間関係の情報の取り扱いにも利用できます。もちろん、これらの技術を使うことによるリスクや負の影響も明らかにする必要があり、協力いただける親子とともに、慎重にその影響を検証しています。

CCCではどのように第三者のかかわりが実現されるのでしょうか?

Q&A

このページでは、CCCに関するよくある質問と答えを掲載しています。もしほかにも疑問な点等があれば、ぜひ私たちにご意見をお寄せください。

親の視点から

Q. 親といる時間が減ると、子どもはかわいそうなのではないかと感じてしまいます。

A. 子どもは親だけから学ぶわけではありません。愛着理論で有名なハーロウのアカゲザルの実験では、母親とだけいっしょに育った子ザルは、後々「正常な」社会的行動を発達させませんでした。私たちは、親子の時間も大切にしつつ、親以外の人からも学ぶ機会を提供できるとよいのではと思います。

Q. 親と一緒でないと危険ではないでしょうか。

A. 閉鎖的な環境にしないなど第三者に安心して関わっていただく環境を作り出す工夫は必要です。子どもが育つ環境で生じる問題を完全に食い止めることは難しいので、その可能性を意識しつつより良い解決方法を考えることが大切かもしれません。

Q. 子どもの個人データが知らない人にわたらないでしょうか?

A. CCCの運用システムでは、親子と第三者のかかわりを、安全で信頼できる形で記録します。また、かかわった本人(親子)は、データを自由に閲覧でき、第三者と子どものかかわりを簡単に把握できるようにします。これを実現するためには、既存のSNSなどのコミュニケーション技術だけでなく、それをブロックチェーンなどのデータベース技術と組み合わせることが有効でしょう。CCCの運用システムでは、親子の許可なく子どもの記録や写真、名前などが他者にわたらないような、親子にとって安心なしくみをつくることが大切だと考えています。

第三者の視点から

Q.自分が子どもの成長にかかわったことを証明できますか?

A. CCCの運用システムでは、第三者が、子どもが育つ場にかかわったことを、安全で信頼できる形で記録します。また、データの扱いについては、実際にかかわる前に親子と第三者で合意します。もし、親子の要望によりデータの扱いが変更されても、第三者が親子にとって、よいかかわり方をしたこと自体は、実績として残るシステムであるべきだと考えています。そのためには、web3技術などの近年のICT技術を応用することが有効でしょう。

Q.子育てに他人が手や口を出して良いものなのでしょうか。第三者として親子にかかわりを持つのは不安です。

A. 第三者が親子に関わっていくためには、かかわり方のルールが明確な方がいいのかもしれません。どんなルールが必要なのか、それも一様ではなく、さまざまなかかわりの形によって、その形に応じたルールが必要になってくるはずです。CCCのしくみを使って、どのようなかかわりを持つか、それにはどのようなルールが必要なのかを一緒に考えていくことで、双方にとって良いかかわり方を見つけていけるのではないかと考えています。

おわりに

少子化が進む日本の中で、子どもが育つ環境を整えることは、親子だけではなく社会全体の課題ではないでしょうか。たとえば、子どもをもたない人は、どのようなしくみがあれば、子育てに少しでも関心を持つことができるでしょうか。また、閉塞的な関係性の中で、子育てに苦しんでいる人は、どのように子育てに関わるネットワークを広げていくことができるでしょうか。

親だけでなく、色々な人とのつながりを持ち、多くの繋がりの中で養育される環境は、子どもにとっても良い環境になり得るかもしれません。子どもにとって、あるいは自分にとって、どんな子育てがいいのだろう?と考えた時に、多くの可能性や選択肢の中で、自分にとって納得のいく最適なかかわり方を選べるしくみを私たちは作っていきたいと思っています。

連絡先

JST ムーンショット型研究開発事業 目標9
「2050年までに、こころの安らぎや活力を増大することで、精神的に豊かで躍動的な社会を実現」(外部サイト)

「Child Care Commons:わたしたちの子育てを実現する代替親族のシステム要件の構築」
プロジェクトマネージャ:細田千尋(東北大学大学院情報科学研究科・加齢医学研究所)

E-mail: childcarecommons@gmail.com